遺言を作成しないで亡くなった場合、各相続人は、法定相続分に応じて遺産を取得すことになります。
具体的に誰が何を取得するかは、相続人全員で遺産分割協議をして決めます。
しかし、近年、遺産分割協議がまとまらず、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる事件が急増しております。
急増の要因としては、
①家族・親族間のコミュニケーションが不足になっていること。核家族化などで家族関係が希薄になったこと。
②個人の権利意識が高まったこと。
③高齢社会を反映する、親の世話や介護に関する意見の相違。「自分1人で親の面倒を見たのだから、他の兄弟姉妹より多くの相続財産をもらう権利がある」などの主張や不満から、骨肉の争いとなっていく。
[遺言書の作成が必要なケース]。
1.子供や父母がいない夫婦で、妻に全財産を相続させたい場合。
再婚をし,先妻の子と後妻がいる場合
2.遺言者に貢献してくれた人や、世話をしてくれた人に財産を取得させたい場合。
3.「相続権のない人」に財産を取得させたい場合。
4.会社を経営していて、子供に事業を承継した場合。
5.相続人間が不仲で、相続開始後もめる可能性が高い場合
6.相続人がいない場合。
7.国や公益法人などに寄付したい場合。
8.相続財産のほとんどが不動産の場合。
一般的な遺言の方式には下記の3つがあります。
①自筆証書遺言
②公正証書遺言
③秘密証書遺言
上記以外にも、危篤状態・遭難・伝染病などで隔離されているなどの場合に作成できる特別方式の遺言もありますが、そういう事情がない場合には、一般的な遺言の方式によって作成することになります。
実務的には、①自筆証書遺言又は、②公正証書遺言のどちらかを作成するのがほとんどです。
①自筆証書遺言と②公正証書遺言の比較は下記のとおりです。
区分 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
難易度 | 簡単 | 難しい |
費用 | かからない | 公証役場手数料(5万円~10万円) |
証人 | 不要 | 二人必要 |
保管 | 難しい | 公証役場で原本を保管 |
秘密性 | 秘密にできる | 証人から内容が漏れる可能性あり。 |
紛失の可能性 | ある | 紛失しても再発行できる。 |
検認 | 必要 | 不要 |
メリット | ①費用がかからない。 ②証人が不要。 | ・確実に遺言内容を実現できる。無効になる可能性がほとんどない。 ・自書できない人でも利用できる。 ・相続開始後、家庭裁判所で検認がいらない。 |
デメリット | ①専門家の関与がない場合、無効になる可能性が高い。 ②自書できない人は利用できない。 ③相続開始後、家庭裁判所で検認が必要。 | ①公証人へ支払う手数料がかかる。 ②証人が2名必要 ③自書できない人も利用できる。 |
お勧め度 | ○ | ◎ |
公正証書の作成費用一覧は下記のとおりです。
財産の価額 | 手数料の額 |
100万円まで | 5,000円 |
100万円を超え200万円まで | 7,000円 |
200万円を超え500万円まで | 11,000円 |
500万円を超え1,000万円まで | 17,000円 |
1,000万円を超え3,000万円まで | 23,000円 |
3,000万円を超え5,000万円まで | 29,000円 |
5,000万円を超え1億円まで | 43,000円 |
1億円を超え3億円まで | 43,000円に5,000万円超過ごとに 13,000円を加算 |
3億円を超え10億円まで | 95,000円に5,000万円超過ごとに 11,000円を加算 |
10億円超 | 249,000円に5,000万円超過ごとに 8,000円を加算 |
[計算例]
1.相続人が1人で相続財産が5,000万円の場合
29,000円+11,000円=40,000円
2.相続人が3人で相続財産が1人2,500万円の場合
23,000円×3+11,000円=80,000円
3.相続人が3人で相続財産が8,000万円、4,000万円、2,000万円の場合の手数料
43,000円+29,000円+23,000円=95,000円
遺言は、判断能力がなくなってからは作成できません。
遺言を作成しないうちに、判断能力がなくなったり、死亡してしまっては最終意思を残すことができません。
したがって、遺言は、心身ともに元気なうちに作成しておくべきです。
なお、遺言は満15歳以上になれば、未成年者でも作成できます(民法第961条)。
また、成年被後見人は、判断能力が一時回復した時に、医師2人以上の立会いがあれば作成できます(民法第973条)。
遺言でできることは、民法で法定されています。
民法で法定されたこと以外のことを記載することもできますが、法的効力はありません。
例えば、家族みんなで仲良く暮らして欲しいなどです。これは、単に希望を書いたに過ぎませんので、法的に拘束力はありません。
[遺言でできる事項]
子の認知
未成年後見人の指定
推定相続人の廃除・廃除の取消
相続分の指定及び指定の委託
特別受益の持ち戻しの免除
遺産分割の方法の指定、及び指定の委託
遺産分割の禁止
遺贈
財団法人設立のための寄附行為
信託の設定
遺言執行者の指定及び指定の委託
遺言執行者の職務内容の指定
祭祀財産に関する承継者の指定
生命保険金の受取人の指定及び変更
外国に住む日本人が遺言する場合には、色んな法律が絡んできます。
まず、最初に検討する法律は、「遺言の方式の準拠法に関する法律」です。
この法律の第2条では、日本の法律はもちろん、行為地法、住所地法、常居所地法、不動産所在地
法によって、そのどれかに適合すれば、その遺言の方式については有効になります。
民法よりもできるだけ広く遺言を有効になるように配慮されております。
具体的に、自筆証書遺言と公正証書遺言の作り方は、以下のとおりです。
自筆証書遺言 | 外国に住む日本人が、その住んでいる国で、日本の民法の規定に基づき自筆証書遺言を作成することができます。 また、外国語で遺言を作成することもできますが、日本国内の不動産について相続による名義変更登記をするには、訳文が必要になります。 押印は、拇印ですることもできます 。 |
公正証書遺言 | 日本の民法の規定に基づき公正証書を作成することができますが、 日本の公証役場で作成することは難しいので、外国にある日本の領事館で作成することができます(民法第984条)。 外国の公証人に、その国の公正証書遺言の方式で遺言を作成することもできますが、公証人が公正証書を作成できる国と作成できない国がありますので、事前に確認が必要です 。 |
日本に住んでいる外国人は、日本の民法の規定に基づき遺言を作成することができます。
外国人の遺言が、本国で執行される場合は、本国での準拠法がどのように規定されているかによることになります。
昭和39年成立の「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」を批准した国であれ ば、その多くは日本の方式準拠法と同じ規定をおいていると思われます。
具体的に、自筆証書遺言と公正証書遺言の作り方は、以下のとおりです。
自筆証書遺言 | 日本語又は外国語(本国語)で作成できます。 押印は、拇印でも平気ですが、必要ない場合もあります。 |
公正証書遺言 | 公正証書遺言は、外国語ではなく日本語で作成します。 公証役場への提出書類として、外国人登録証・本国政府発行の旅券などです。詳細は、作成する公証役場に問い合わせる必要があります。 |
実務上、「長男甲にはA土地を、二男乙にはB土地を相続させる。」という形式の遺言を作成することがほとんどです。
これを、専門家たちは、「相続させる旨の遺言」といいます。
簡単に言うと、遺言者が、「遺産分割の方法を指定」したことになります。
「相続させる旨の遺言」は、従来より解釈の仕方について、「遺産分割方法の指定」なのか、遺贈なのか、判例や学説の見解が分かれていました。
「相続させる旨の遺言」と「遺贈する」比較は、以下のとおりです。
区分 | 「相続させる」 旨の遺言 | 遺贈 |
遺言の記載方法 | 長男Aに甲不動産を「相続させる | 孫のBに「遺贈する」 |
登記申請の方法 | 相続人から単独で申請できる | 受遺者と遺言執行者(又は相続人全員)が共同で申請する |
登記申請に権利証及び印鑑証明書添付の要否 | 不要 | 必要 |
登録免許税 | 固定資産税評価額×0.4% | ・相続人が取得する場合は、固定資産税評価額×0.4% ・相続人以外の人が取得する場合は、固定資産税評価額×2% |
不動産取得税 | 非課税 | 相続以外に対する遺贈は課税される |
自筆証書遺言書は、下記の4つの要件を満たせば、法律上有効な遺言になります。
①全文を自書
②日付を自書
③氏名を自書
④押印
①全文を自書
全文を自分の手で書くことによって、遺言者の真意を確認し、後日、筆跡鑑定等によって遺言者が書いたものであることを判定するためです。
筆記用具は、ボールペンでも万年筆でかまいません。
しかし、ワープロ・パソコン等で遺言を作成した場合には、無効となります。
また、ビデオに録音・録画した遺言も同様に無効です。
遺言書を作成しても、期間が経過すれば、遺言者の意思が変わることもあります。
そういう場合、遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、遺言の全部又は一部を撤回することができます(民法第1022条)。
また、撤回する権利は、放棄することができません(民法第1026条)。
なお、下記のような場合、遺言は撤回されたものとみなされます。
①前の遺言と抵触する新たな遺言を作成した場合⇒抵触する部分
②遺言に抵触する生前処分などがされた場合⇒抵触する部分
③遺言者が故意に遺言書を破棄した場合⇒破棄した部分
④遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄した場合⇒破棄した部分
[公正証書遺言の作成方法]
①証人2人以上の立会いが必要。
②遺言者が遺言の趣旨を公証人に口頭で伝えること。
③公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者と証人に読み聞かせること。
④遺言者と証人が筆記の内容が正確であることを承認したうえで、各自署名押印すること。
但し、遺言者が署名することができない場合には、公証人がその事由を記載して署名に代えることができます。
⑤公証人が遺言が正式な手続きに従って作成したものである旨を付記してこれに署名押印すること。
※実際は、事前に公証人に遺言の文案をFAX等で送っておき、打ち合わせをして最終的な文案を作成します。最終的な文案が完成したら日程を調整して公証役場に行きます。
遺言者が公証役場に行く場合には、どこの公証役場でも作成できます。
公証人が出張する場合は、公証人は、管轄法務局の区域内でしか職務を遂行することができませんので、管轄区域の中の公証役場に依頼する必要があります。
公正証書遺言においては、証人2名の立会が必要になります。
したがって、証人2名と公証人の最低でも3名には内容が知られることになります。
そのため、公正証書遺言を作成する場合には、自筆証書遺言と異なり、遺言の秘密を保持できるかが重要になります。
よって、証人については、法律で守秘義務が課せられている法律家を選ぶことをお勧め致します。
公正証書の原本の保管期間は、原則として20年間と定められていますが、特別の事由により保存の必要がある場合は、その事由のある間は保存しなければならないとされております(公証人法施行規則第27条3項)。
公正証書遺言の場合には、遺言者の死亡時点まで保管しておく必要がありますので、実務上、20年の保管期間満了後も、公正証書遺言の原本を保管しているのが一般的です。
具体的な保管期間については、各公証人役場で取扱いが異なりますので、事前に作成を予定している公証役場に確認しておいた方が良いです。
公正証書遺言の証人になれない人は下記のとおりです(民法第974条)。
①未成年者
②推定相続人、受遺者とその配偶者、直系血族
③公証人の配偶者、四親等内の親族、書記・雇人
[遺言者]
①戸籍謄本
②印鑑証明書
③不動産登記事項証明書
④固定資産評価証明書
⑤実印
⑥身分証明書(運転免許証、パスポートなど)
[相続人]
①戸籍謄本
②住民票
[受遺者]
①住民票
[遺言執行者]
①住民票
[証人]
①住民票
②印鑑(認印)
遺言執行者とは、相続人の代理人として、遺言書に書かれている内容を実現する人のことです。
遺言執行者は、遺言による指定又は利害関係人の申立によって家庭裁判所が選任します。
遺言執行者は、相続財産の管理その他執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。
例えば、
・預貯金の解約
・「遺贈」を原因とする不動産の名義変更登記
・相続不動産の売却などの手続きを行います。
★遺言執行者になれない人(民法第1009条)
①未成年者
②破産者
したがって、相続人や親族なども遺言執行者になることができます。
[遺言執行者を選任するメリット]
①遺言内容を確実に実現できます。
他の相続人が勝手に財産を処分したり、手続を妨害するような行為を阻止できます。
仮に、相続人が無断で相続財産を処分しても、その処分行為は無効になります。
②遺言執行者が、遺言内容を単独で実現する権限を有しておりますので、スムーズに手続が進みます。
例えば、「遺贈」を原因とする不動産の名義変更登記をする場合や預貯金を解約する場合、遺言執行者がいないと、相続人全員に実印を押してもらわないと手続きができません。
しかし、遺言執行者が選任されていれば、これらの手続きについて相続人が関与することなく手続きを進めることができます。
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